『登山』は幸福になるためのソリューション!?

  最近、私にはとてもハマっている趣味があります。それは、「登山」です。遡ること1ヶ月前、前職を辞めて、心身ともに気怠さの極みをいっていた私に、友人が「山に登らない?」と誘ってくれて人生初の登山を経験することになりました。登った山は比較的初心者でも登りやすいと言われている山で、久しぶりにドキドキ、ワクワクがないまぜになった状態で当日を迎えました。はじめから、段差の高い丸太で作られた階段をひたすら登り、やっと終わったと思うとそこからは果てしなく続く急登。普段の運動不足も祟ってか、序盤で登ったことを若干後悔するくらいにキツかったです。しかし、なんとか中盤からは慣れてきて、下山時は人生で初めて膝がとんでもなく痛みましたが、苦心惨憺の末、痛みとの戦いを制し、無事下山をすることができました。登山後の自分の気持ちはというと、ただ、達成感、爽快感が全身を包み、率直に楽しく、また登りたい!と言う気持ちでいっぱいでした。その後も毎週末には友人と共に、登山を楽しんでいます。因みにこの記事を書いている本日も一人で近場の山に登ってきました(笑)。そのような中、登山をはじめていろいろ経験をしていくうちに、ある一つの考えが浮かんできました。それは、”「登山」は幸福になるためのソリューションなのではないか”ということです。では、具体的にそのように思った理由を説明していきたいと思います。

『登山』をすることで、幸福ホルモンがいいとこ取りできる!

 私たちが、日常生活で「幸せ」を感じる時、脳内では100種類以上の幸福物質が分泌しているといわれています。その中でもとりわけ私たちの日常的な幸福感を司る主な幸福物質として、「セロトニン」「オキシトシン」「ドーパミン」が挙げられており、これらは”3大幸福物質”として現在では様々な本やウェブサイトで紹介されています。具体的に「セロトニン」は覚醒・気分・意欲などと関連した脳内物質です。セロトニンが少なくなると、うつ病のリスクが高まります。「オキシトシン」は愛や繋がりのホルモンと言われ、癒しや安らぎ、ストレスの軽減につながります。「ドーパミン」は意欲や集中力に関係するホルモンです。

 精神科医、作家の樺沢紫苑氏は著書「精神科医が見つけた 3つの幸福」の中で、幸福になるための上記3つのホルモンを挙げており、セロトニン的幸福は(心と体の健康)、オキシトシン的幸福は(つながり・愛)、ドーパミン的幸福は(成功・お金)で、3つの幸福の順番を間違わないことが重要である、(セロトニン→オキシトシン→ドーパミンの順番)と解説しています。具体的な内容に関しては本書をお読みいただいたほうが良いので割愛いたしますが、私は登山をしていく中で、「登山」によってこれら3つのホルモンがいいとこ取りできることに気がつきました。

心身の健康の基礎「セロトニン」

 セロトニンは日光を浴びると共に、合成・分泌を開始し、夕方にかけて徐々に分泌を減らしていきます。夕方からはセロトニンを材料としてメラトニンという睡眠に関係するホルモンが分泌されます。また、他の脳内物質の分泌の調整をするのもセロトニンの役割です。身体の1日のリズムを司る、別名「脳の指揮者」とも呼ばれる物質です。セロトニン量が少なくなると、うつ的になることは先ほど説明しましたが、他にも感情のコントロールが効かなくなり不安定になったり、集中力が低下したり、その他痛みにも寄与する物質のため、なんとなく身体がだるい、痛いといった症状も引き起こします。つまり、セロトニンは私たちの心身の健康を保つための基礎となる物質と言えます。

 セロトニンを合成・分泌する主な方法としては、「光を浴びる」「咀嚼する」といったことが挙げられます。人間の網膜にある「メラノプシン」という受容体が光を浴びることで感知し、睡眠に関係するメラトニンの分泌を抑え、セロトニンの合成・分泌を促します。また光を浴びることで体内時計がリセットする、という役割もあります。登山は登る山によっても異なりますが、登頂・下山と往復すると長時間を要する山も多く、また自宅から遠く、離れている場所も多いため朝早くに登山を開始することも多いです。「朝の光を全身に浴びながら山を登り、山頂でおいしいご飯を食べる」。まさにセロトニン幸福を享受するための絶好の方法です。また山によっては森林道を歩くこともあります。森林浴をすることもセロトニンの分泌につながります。そしてこれは私の経験ですが、登山中は余計な雑念が全く生まれません。目の前の道の状態や景色など「今ここ」の事象に集中が向きます。瞑想やマインドフルネスといった状態に近いです。これもセロトニンが寄与しているのだと思います。

つながりの幸福「オキシトシン」

 オキシトシンは「つながり・愛のホルモン」と言われることが多いです。他者との交流や関係によって分泌されるホルモンです。オキシトシンが分泌する行動には、スキンシップ(パートナーや家族との交流、ハグ、キス、性交)友情・仲間の存在(会話、コミュニティ)、親切・感謝(他者貢献、ボランティア)、動物との交流(植物を育てることも良い)があります。逆にこれらが途絶された状態は「孤独」です。孤独という状態はオキシトシンが分泌しない、不幸せな状態と言い換えることもできると思います。実際に、社会的なつながりをもたないことで死亡リスクが50%向上する、また孤独は喫煙習慣と同等の健康を阻害因子である、という研究もあります。つまり、社会的なつながりを断つことは、自らの心身の健康を損なうことにもつながるということです。

 登山をしていて、自分自身とても驚いたことがあります。それは他の登山者とすれ違うたび、ほとんど必ず「おはようございます」、「こんにちは」とお互いが挨拶を交わすということです。そして表情は基本的に、口角が上がり、にこやかで明るい表情の方が多いです。そんなの当たり前だよ、と思う方もいらっしゃると思いますが、例えば、街中で目に付くすれ違い様の人に次から次へと挨拶したらどうなるでしょうか?場合によっては変質者と思われ、通報されてしまうかもしれません(笑)。私たちはそんな当たり前が排除された空虚になってしまった(私たちが空虚を作ってしまったのかもしれない)世界に住んでいるのかもしれません。実際にスウェーデンの精神科医、作家のアンデシュ・ハンセン氏は著書「スマホ脳」の中で、SNSの普及、発達によって人々のつながりは容易になりその人数も増えた一方で、人間の脳がそれらテクノロジーに適応できておらず、様々な心身の弊害、を与えていることを示唆しています。心理学では「相手の存在を認める好意」を「ストローク」と言います。心理学者エリック・バーンは「人間は誰しもストロークを求めて生きている」と述べています。挨拶はコミュニケーションの入り口です。人は挨拶されることで「人から認められた」「歓迎されている」という気持ちになります。また登山をしていると山頂で居合わせた他の登山者の方と、自然と世間話をする機会が多いです。心理学では人は信頼関係を構築するのにおおよそ3ヶ月〜数ヶ月程度を要すると言われており、「ラポール形成」と言います。ラポールを形成するにはお互いが「自己開示」を繰り返していくことが重要です。まさに言葉のキャッチボール、といったイメージです。登山に関しては、まさに「山を登ること」以外の目的で山頂を目指している人はほとんどいないはずですから、行動の目的が共通しているため、日常生活よりも人間関係のガードは緩くなるとも思われますが、信頼関係の構築のプロセスも早いように思えます。また家族や友人、恋人と登ることも良きスキンシップやコミュニティの団結を強め、オキシトシン分泌につながると思います。オキシトシンにはその他、リラックス効果(血圧や脈拍降下)、不安の軽減、免疫力や細胞修復にもつながります。

自己成長や達成感の「ドーパミン」

 ドーパミンは意欲や集中力に関係するホルモンで、「もっと頑張ろう」と私たちを奮い立たせる原動力になります。それが自己成長や新たなチャレンジにつながります。一方でドーパミンは先述のセロトニンやオキシトシンと比べてその幸福度が逓減しやすい物質です。人間の脳は現代の様々なテクノロジーが進化した最中でも、狩猟採集民族社会の時代から変わっていないと言われています。狩猟採集社会において、主に「生存すること」、「子孫を残すこと」の2点に特化して人間の脳は進化してきました。つまり、「常に集中力を高め、行動する動機を与える」ことにドーパミンは寄与してきたと言えます。ですから、その効果は「逓減しやすく」、「もっと、もっと」と私たちに問いかけるのです。そしてドーパミンは確実なことよりも不確実なことにより多くの報酬を与えるようにできています。ドーパミンは登山などある程度難しい、努力や時間を要する課題をクリアせずとも簡単に分泌を促すことが可能です。その最たる例が飲酒やスマートフォンです。たったの数百円のお酒を買うだけで多幸感を味わえます。SNSのいいねが来ていないかな、あの人からメッセージが来るかもしれないな、「かもしれない」はより多くのドーパミンを分泌します。これが結果的に心身の健康を侵し、依存症を招く可能性につながります。これがドーパミンには光と影の二面性がある、と言われる所以です。

 一方で登山などの努力や時間を要する課題をクリアすることは、自己成長を促します。山を登る、ということは非日常の安全な領域(コンフォートゾーン)を出ることにもなります。初めて入らせていただく土地や自然、熊など野生動物にも十分な注意を払わなければなりません(野生動物、植物のすみかに人間が入らせていただくことへの感謝も忘れてはなりません)。このような適度なドキドキ・ワクワクを伴うことは集中力や、やる気をUPさせ、自己成長につながります。また、樺沢紫苑氏は先述の著書の中でセロトニン、オキシトシン幸福とドーパミンが掛け合わさることでその幸福が逓減しづらい、ことについても述べています。

さいごに

 ここまで登山と幸福ホルモンの関係性について説明してきました。登山とは、幸福ホルモンをいいとこ取りできる、まさに「幸福になるためのソリューション」だと私は考えます。実際に私はそれで、今は心身の健康を少しずつ取り戻し、こうしてこの文章を書くことができています。もし、この文章を読んでくださっている画面の向こうの皆様が今、心身の調子が悪い状態ならまずはゆっくりと休息してください。そして少し余裕ができたら、登山にも挑戦してみてください。最後に、私を登山に誘ってくれた友人に最大限の感謝と敬意を表しまして、筆を置きたいと思います。ありがとうございました。

 

最新情報をチェックしよう!